2022年に入り、
情報誌やSNS、セミナー情報などでメスカルという言葉を耳にする機会が増えました。
日本国内で開催されるTokyo Whisky&Spirit Competition(TWSC)でもエントリーが増えているようです。
実際にヨーロッパへの輸出量も増加しており、
国外を見渡しても【メスカル】が現在注目されております。
そんなメスカルの情報をまとめていきます。
メスカルとは
メスカルとは
アガベという多肉植物を原料にして作られるメキシコ原産の蒸留酒です。
アガベは200種類以上もある中より種類の指定はなく、
メキシコ国内の指定9州内で、
アガベの育成から蒸留まで行うことが義務付けられています。
※1996年に原産地呼称【Mezcal(メスカル)】を取得、2005年より実施。
メスカル指定9州
オアハカ州/ ドゥランゴ州/ サカテカス州/ サン・ルイス・ポトシ州/ グアナファト州/
サカテカス州/ タマウリパス州(2001年)/ ミチョアカン州(2003年)/ プエブラ州(2016年)
メスカル主要規則
①原材料のアガベについて種類の指定なし。※全種OK
②メキシコ国内の指定9州でアガベを育成、成熟させ、調理、蒸留まで行う。
③蒸留回数の規定なし
④アルコール度数35~55%
⑤100ml中のメタノール値3mg以下
メスカルの製造工程
メスカルの製造工程の流れはこのようになります。
①アガベの栽培 → ②収穫 → ③加熱 → ④搾汁 → ⑤発酵 → ⑥蒸留
アガベの収穫までに主要品種エスパディンで5~7年かかります。
アガベの種類によっては収穫までに25年以上かかるものもあります。
この辺りが【大地のお酒】と言われる所以でしょうか。
原料の収穫にここまで時間を要する蒸留酒は他に見当たりません。
ここではメスカル全体の約90%を占める
【メスカル アルテサナル】の製造工程についてみていきます。
①アガベの栽培
野生種のアガベも使われていますが、
種子から苗を育てる、また若芽や子株を畑に植えた栽培も行われています。
②収穫
成熟したアガベを【コア】や【マチェーテ】といった
鎌のような道具を使い、収穫していきます。
まずは根から【ピニャ】を切り出します。
切り出した【ピニャ】の葉を【コア】や【マチェーテ】で切り落としていきます。
メスカルで使用されるアガベの葉は
テキーラで使うアガベ(ブルーアガベ)よりも硬く頑丈なため、より大変な作業となります。
必要に応じて
大きなピニャは適度な大きさにカットされます。
③加熱
加熱方法は1タテマド、2マンポステラ、3アウトクラベの3つの方法があります。
タテマド: 地面を利用した窯
マンポステラ: レンガの窯
アウトクラベ: 圧力釜
メスカルの燻されたスモーキーな香りはタテマド由来が多く、
メスカルの製造工程を特徴づけるものであると言えます。
マンポステラ、アウトクラベはテキーラでも使われる手法ですが、
メスカルアルテサナルにおいては
タテマドとマンポステラで加熱することが規定されています。
加熱の目的はアガベを糖化させるためです。
アルコール発酵させるには糖分が必要です。
④搾汁
次の発酵過程で酵母や微生物がアガベの繊維に辿り着くために必要な工程で
搾汁方法にはタオナ、カノア、シュレッダーがあります。
タオナ: 石臼にアガベを置き、大きな石を回してつぶしていく。
カノア: カノアと呼ばれる臼に糖化させたアガベを入れ、マソ(大槌)で押しつぶす。
マソは20kgにもなり手作業で行う為、重労働となる。
シュレッダー: 粉砕機で加水しながらつぶす。テキーラの製造工程で一般的な方法でもある。
⑤発酵
自然酵母で発酵を行う。
発酵をより促し風味を出すために搾りかすであるバガスを入れる場合もある。
発酵容器は木製、粘土製、動物の皮などを使って行われる。
⑥蒸留
銅製または粘土製の蒸留器を主に使用しますが、
オジャデバロと呼ばれる昔ながらの蒸留器なども使われます。
直火で蒸留されることが多く、蒸留液に搾りかすであるバガスを入れる場合もあります。
メスカルのカテゴリー
①メスカル Mezcal
大量生産型。
調理:タテマド、マンポステラ、アウトクラベより、いずれか
搾汁:タオナ、カノア、シュレッダー、他ミルより、いずれか
発酵槽:木製、石積み、ステンレスタンクより、いずれか
蒸留:銅製またステンレス製の単式、連続式蒸留器
②メスカル アルテサナル Mezcal Artesanal
調理:タテマド、マンポステラ
搾汁:タオナ、カノア、シュレッダー
発酵槽:木製また粘土製、石積み、動物の皮
蒸留:銅製または粘土製の蒸留器で、直火加熱方式
③メスカル アンセストラル Mezcal Ancestral
少量生産。
調理:タテマド
搾汁:タオナ、カノア
発酵槽:木製また粘土製、石積み、動物の皮
蒸留:土鍋で、直火加熱方式
メスカルのクラス
ブランコ: 熟成0~2カ月
レポサド: 2~12ヶ月未満
アニェホ: 12ヶ月を超えたもの
マドゥラド: 瓶内で12ヶ月
風味付けしたもの
アボカドコン: 固形物を漬け込み風味をつける
ディスティラードコン: 蒸留により風味をつける
代表的なものでいえば、ペチューガ(鶏肉)やコネホ(ウサギ肉)を
蒸留器内で吊るしたり、バスケットに入れエキスを抽出する。
元々は祭事用に作られていた。
フルーツなどが使われる場合もある。
出汁を取るようなイメージが近い。
うま味やコクが出て、出汁文化のある日本で受け入れられるのではないかと囁かれているが。
アガベの品種
アガベは多肉植物のリュウゼツラン(竜舌蘭)で
植物学的に【キジカクシ科リュウゼツラン属】となります。
同じキジカクシ科にはアスパラガスがあります。
以前まではユリ科に含められていたが、現在は分けられています。
200種類以上あるアガベからメスカル用に使われているのは
50種類程度で、ここでは主要な3種をご紹介します。
①エスパディン / アングスティフォリア ※一般名 / 学名 (以下省略)
メスカル9州の中でもその中心はオアハカ州ですが、
その中でもエスパディンはメスカル生産全体の80%を占める主要なアガベです。
テキーラで使用されるアガベアスールの先祖でもあります。
成熟までに5~7年程度で他アガベに比べて熟成が短く、糖度も高いため最も使われています。
②クイシェ / カルウィンスキー
変種が多く、
大きさや葉の色などの違いにより一般名がトバシーチェ、マドレクイシェなどたくさんあります。
オアハカ州に育つ固有種。
成熟に15年程度。ミネラル、トロピカルフルーツを思わせる風味があります。
③パパロテ / クプレアータ
バルサス川流域の固有種で
ゲレーロ、ミチョアカンで栽培されています。
成熟までに10~12年程。柑橘、シトラスのような風味が特徴です。
まとめ
メスカルを特徴付け、
その特徴を一番あらわしているのはブランコではないでしょうか。
樽の風味をつけず、
原材料であるアガベや少量生産の製造工程の風味が強く残る味わい。
仕込み水の塩分濃度が高いため、塩味が感じられるのも他の蒸留酒にはありません。
何といっても
ハードリカーでテロワールを感じられるものはメスカル以外にないかもしれません。
アガベの品種や
同じ品種であっても栽培、収穫されるエリアが違えば味が大きく変わる。
アガベが熟成し収穫されるまでも期間が6年以上、
長いものであれば25年も必要であることを考えると
大地の酒と呼ぶにふさわしいお酒だと考えられます。
現代の中でも
粘土製のポットで作られており、少量生産も多いメスカル。
タテマドなど手作業で造られる味わいを感じてみてはいかがでしょうか。
参照先
COMERCAM https://comercam-dom.org.mx/
JUAST https://tequilajournal.jp/mezcal/
日本メスカル協会 http://mezcal.jp.net/